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〈2018/07/10〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】第3回 日本の子育て支援への公的支出は少なすぎる

1990年の合計特殊出生率1.57(1.57ショック)が、日本の人口置換水準(人口が減少せず一定数を維持できる出生率)2.04を大きく下回って以来、政府も子育て支援に力を入れるようになりました。しかし、少子化はさらに進んでおり、昨年(2017年)の合計特殊出生率が1.43でした。一方、日本に先んじて少子高齢化社会の傾向を示していたスウェーデンは近年、出生率が上昇傾向に転じています。またニュージーランドの出生率は先進国の中では比較的高い値になっています。(下図の折れ線グラフではOECDのデータとの整合性をはかるため、各国の特殊合計出生率は2013年の値を(人)で示しています)

日本のような少子化が著しい国には、有業の親のための政策支援が不十分、職場の雰囲気が産休や育休の取得を申請し辛い、出産や育児のためにいったん離職した人が就労市場に再参入するのが難しい、仕事と子育ての両立が困難、などの特徴があります。産休や育休、時短勤務を申請できる制度があっても、申請者の担当分の仕事が、既にたくさんの仕事を抱えている同僚のさらなる負担増になるのであれば、同僚は「産休や育休、時短勤務を快く認めてあげたいけれど、現実には、これ以上の過重労働は無理」となるでしょうし、出産や育児で休業が必要な人も「職場の人に迷惑をかけるのは心苦しい」と思うと、申請をためらってしまうでしょう。

けれどこれは、産休・育休・時短勤務の部分を補う人の(臨時)雇用やワークシェアの保証、復職しようと思った時に、どの子も公立の小学校には必ず入れることが保証されているように認可保育所に入れるなどの保育サービスの保証が行政の支援によって実現されれば、解決できる問題です。スウェーデンやニュージーランドの先進事例で証明されています。

そのためには予算が必要です。下図の棒グラフは、日本、スウェーデン、ニュージーランドの、家族や子どもと高齢者に対する公的支出の国内総生産(GDP)との比率を%で示したものです。どこの国も高齢者のための支出の方が多いのですが、問題はそれに対する家族や子どもへの支出の割合です。ニュージーランドでは高齢者への支出の約6割、スウェーデンでは1/3程度ですが、日本は何と高齢者への支出の1/10しか、家族や子どものために使われていません。国際的にみても、日本の公的支援は高齢者に大きく偏っています。

▲公的支出のGDP比率と出生率

子どもや家族を支え、日本の未来を担っていく子どもと子育てをしている人達を社会で支えていくために、行政の公的給付の公平な配分について見直す必要があると思われます。

参考資料

・厚生労働省, 平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況
・各国の家族・子どもと高齢者への公的支出の対GDP比率(最新データ:2013年)
・各国の合計特殊出生率 世界銀行(2013年)

 

【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授

 

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