コラム
〈2025/12/01〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
悪い子はいないかー、ナマハゲとクランプス
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
園の先生方も、いつにもまして忙しい師走になりました。保護者の方も、家でも職場でも大忙しの12月ですが、子どもたちにとっては、サンタクロースからプレゼントがもらえてケーキが食べられるクリスマスや、年神様が宿る御歳魂(おとしだま)という鏡餅を分け与えることが起源のお年玉(参考資料1)がもらえて近年は子どもの口に合うようアレンジされたご馳走が食べられるお正月の前夜の大晦日など、ワクワクする日が続きます。
サンタクロースや神様は子どもを慈しむ子どもに優しい存在ですが、「悪い子を戒める」怖い存在も12月にはやってきます。日本で有名なのは「ナマハゲ」(参考資料2)で、秋田県の男鹿半島などで現在では12月31日の大晦日に「悪い子はいねがー」(悪い子はいないか)などと言いながら地域の家々を巡ってきます。鬼のような形相をしていますが鬼ではなく神の使いで、家族の無病息災や家の厄災を払うといったご利益をもたらすとされています。でも、とても怖い形相をしているので、「泣く子はいねがー、親の言うこど聞がね子はいねがー」(泣く子はいないか、親の言うことを聞かない(悪い子は)いないか)と言われて泣きそうになったり、実際に大泣きしてしまう子もいるようです。
クリスマスにも、そんな怖い存在がいます。クランプス(Krampus)という、頭に大きな角、口に尖った牙を持つ体の半分がヤギという「クリスマスの悪魔」です(参考資料3)。クランプは鎖と鐘を振り回し、悪い子は束ねたカバノキの枝の鞭でお仕置きをして、地獄に引きずっていくとされています。クリスマスによい子の靴下にはプレゼントが入っているけれど、悪い子の靴下には木の枝の鞭が入っている、という欧米の謂れはこのクランプの伝説からきています。
優しいサンタクロース(聖:セイント ニクラウス)は子どもたちに贈り物をくれるのに対して、クランプスは悪い子たちを鞭で叩き、地獄の自分のねぐらに連れ去ります。ドイツやオーストリー、ハンガリーには、「クランプス行列」という、酔った男性が悪魔の格好をして通りを練り歩き、人々を追いかけまわすという、とてもはた迷惑な行事もあります。子どもにとっては恐ろしいだけの存在、大人にとっても迷惑行為でしかない行事のシンボルのクランプスは、長年、規制の対象になっていました。しかし、近年、そんな「怖い・迷惑な・悪い」クランプスを面白がる風潮が広まり(近年、ハロウィーンを楽しむ若者が増えてきたことと似ています)、オーストリアではクランプスをキャラクター化してお菓子やグッズが売り出されたりして(バレンタインデーのチョコレート商戦のように)、クランプスが復活してきています。日本にもこの古くて新しいお祭り騒ぎの喧騒が上陸する日も近いかもしれません。
クランプスは日本のナマハゲと「見た目が怖い」「悪い子ど脅す」という点ではちょっと似ていますが、日本のナマハゲは根は「いいヤツ」ですし、クランプスに比べたらお行儀もとても良く、2018年にユネスコの無形文化遺産にも登録されました。
子どもたちは行事を通して文化や社会とのつながりに気づき学びます(参考資料4)。保育所や幼稚園がお休みの年末年始は、日本の文化や伝統を家庭で体験を通して楽しんで学ぶ保育の絶好の機会です。プレゼントやお年玉をもらってご馳走を食べる数日で終わらせてしまうのはちょっともったいないです。
【参考資料】
1. 奈良県, 奈良の歩き方新提案, Column歴史の行間, 文/宮家美樹・写真/松原雄一, お年玉の起源は葛城山麓の古社にあり!?, https://www.pref.nara.jp/miryoku/aruku/kikimanyo/column/c16/
2. 男鹿市 文化スポーツ課 文化ジオパーク推進班, 男鹿のナマハゲ, https://www.namahage-oga.akita.jp/
3. National Geographic, Krampus the Christmas Devil Is Coming to More Towns. So Where’s He From? 2014, https://www.nationalgeographic.com/culture/article/141222-krampus-christmas-devil-demon-krampusnacht
4. 厚生労働省, 保育所保育指針, 2017.