コラム
〈2025/06/02〉
顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)
子どもの時の糖類過剰摂取の健康リスク
神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業
糖類の摂り過ぎは生活習慣病の発症など健康に悪影響を及ぼすので、保育者や保護者の皆様は、ご自身の糖類の摂りすぎに気をつけているだけでなく、お子さんのおやつにも注意を払っていらっしゃると思います。けれど、“スイーツ(甘いお菓子など)”だけでなく、子どもたちが日々口にする様々な食品に糖類が添加されています。三大栄養素の1つである「糖」は子どもたちの元気な育ちにも不可欠な栄養で、摂取を極端に制限することは避けねばなりませんが、子ども時代に糖類を摂りすぎると、小児肥満に繋がるだけでなく、大人になってからの健康、生涯に渡る健康に影響が及ぶ恐れがあることが分かりました。
例えば、イギリスでの調査研究で、幼少期に多くの「添加糖類」を摂取していた成人は高血圧や2型糖尿病になりやすいことが報告されています。第二次大戦中、イギリスで砂糖が配給制で摂取量が制限されていた時に生まれ育った人と、配給制が廃止されて糖類の消費量が倍増した時代に生まれ育った人を比較したところ、砂糖が配給制だった時代に幼少期を過ごした人は、成人後の2型糖尿病のリスクが35%、高血圧のリスクが20%低かったとのことです。現在、多くの子どもたちが摂取している量は、適切な摂取量をはるかに超えています。世界保健機構(WHO)は1日に摂取する添加糖類(加工や調理の際に添加される糖)の量は、理想的には総摂取カロリーの5%以下、多くても10%以下に抑えるよう推奨しています。10%とは、子どもの年齢によって異なりますが、幼児の場合は100Kcalくらいです。けれど、米国疾病対策センター(CDC)によると、米国の子どもたちは1日にティースプーン17杯分(300Kcal)もの添加糖類を摂取しています。糖類の取りすぎは大人にとっても有害ですが、幼少期から甘いものを食べていた人は、そうでない人に比べて、生涯を通じて甘いものを好む傾向が強くなる可能性が高いため、食の好みがつくられる子どもの時に糖類を取りすぎることは特に問題なのです。(参考資料1)
添加糖類の摂り過ぎは、子どもの時の健康にも悪影響を及ぼします。子どもが240㏄の甘い飲料を毎日飲むと、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる指標)が34%も増えてしまいます(参考資料2)
子どもの添加糖類の摂取を減らすには、親が食品表示ラベルをきちんと見て、添加されている糖類をチェックすることが第一です。マルトース(麦芽糖)、デキストロース、果糖ブドウ糖液糖、天然果汁濃縮液などは全て添加糖類です。そして添加糖類が大量に含まれている食品の筆頭は甘い飲料です。クッキーやケーキ、キャンデーを控えても、甘い飲み物を飲んでいては、添加糖類の過剰摂取は防げません。「100%天然果汁」「ビタミンCが豊富」とパッケージに大きく書かれていても、天然果汁から作られた添加糖類がたくさん使われている、ビタミンCは添加されているが、たくさんの糖類も添加されている、ということを、食品ラベルから読み取ることが必要です。
泣いている子どもに甘いお菓子やジュースを与えてなだめることも避けるべきです。糖類を多く含む食品への依存の恐れがあるからです。甘いものを食べて癒やされるという思考行動パターンを子どもの時に植え付けてしまう可能性があるのです(参考資料3)。
【参考資料】