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調査研究・コラム

コラム

〈2023/12/30〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

コロナ禍の幼児の発達への影響と保育者の気づきの大切さ

神奈川大学 渡部かなえ

神奈川大学産官学連携研究事業

 コロナ禍は子どもたちの健やかな育ちに様々な負の影響をもたらしました。登校や外出、他者との交流が制限されたことにより、子どもたちには運動不足や睡眠など生活習慣の悪化、学業成績の低下などが報告されています。また、就学前の幼児においても発達の遅れが生じる可能性があるという研究データが報告されました(参考資料1)。

調査では、コロナ禍前の保育園児と、コロナ禍の影響を受けた保育園児の発達レベルを、KIDS乳幼児発達スケール(参考資料2)を用いて比較しました。発達レベルの評価はコロナ前・禍中ともに保育士が行いました。

調査の結果、コロナ禍の影響を受けた子どもは5歳の時点で平均4.39カ月も発達が遅れていることが明らかになりました。ただし、3歳の時点ではコロナ禍前後で発達に有意な差は見られませんでした。

コロナ禍は保育所でのケアにも影響を与えました。感染拡大による閉園や登園できない期間があったこと、保育士と子どもあるいは子ども同士の接触に制限をかけなければならなかったこと、保育士がマスクを着用しなければならず子どもたちが保育士の顔を認識し辛くコミュニケーションの障害になったこと、保育士が感染予防のための消毒や作業に時間をとられたことなどが影響し、保育所も保育士も懸命な努力をしましたが、コロナ禍前と同じ保育のレベル保つことは極めて困難でした。そのような厳しい状況にあったコロナ禍での保育の質(評価にはITERS-R(参考資料3)・ECERS-3(参考資料4)の2つのスケールが用いられました)とKIDS乳幼児発達スケールの評価値は、3歳児はコロナ禍との関連があり、コロナ前では有意な関連はありませんでしたが、5歳児はコロナ禍の子どもたちでは特に関係は無く、コロナ前の子どもたちで保育の質と発達に関連がありました。

 

これらの結果について、「パンデミックで保護者の在宅勤務が増えたことが、親子のコミュニケーションがより重要な1~3歳の幼児にはプラスに作用し、一方で3~5歳は友達や保護者以外の大人との交流が重要になってくる時期であるため、外出の機会が制限されたことの負の影響が現れたのではないか」とこの研究報告では考察されています。ただし、保護者が抑うつ状態にある場合は、5歳児でコロナ前とコロナ禍の子どもの発達の差がより大きくなっていたことが明らかになりました。これは、5歳くらいになると、親子のコミュニケーションが難しい状況にあっても、登園して友達や保育士と交流できれば補償されるが、登園できず抑うつ状態の保護者と閉じられた空間で過ごすことが発達の遅れを補償できず、大きな差が生じる可能性があると考えられます。

2023年5月にコロナの感染症法上の分類が5類に変わり、社会も、教育や保育の現場も感染拡大前の状態に戻りつつあります。ただし、コロナ禍に発生した負の状態がいまだに続いている保護者や、その負の影響を受けている子どももいます。保育者は、そうした親子の状況に気付くことができる存在です。園での子どもの様子の観察に加えて、お迎え時の保護者の様子や、園に提出される連絡帳の記載事項などに留意し、ぜひ保護者に声をかけてあげてください。保育者の気づきが、深刻な状況にある子どもや家族が行政や医療機関などによる支援や救済に繋がるきっかけとなるでしょう。

 

【参考資料】

1)Sato K., Fukai T., Fujisawa K. K., Nakamura M., Association between the COVID-19 pandemic and early childhood development, JAMA Pediatr. 2023;177(9):930-938, https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/2807128

2)公益財団法人発達科学研究教育センター(CODER), KIDS乳幼児発達スケール, https://coder.or.jp/kids/

3)Thelma harms, Debby Cryer, Richard M. Clifford, Infant / Toddler Environment Rating Scale®¸ Revised Edition, Teachers College Pr; Expanded, Updated版, 2006.

4)Thelma Harms, Richard M. Clifford, Debby Cryer, Early Childhood Environment Rating Scale (ECERS-3) 3rd Edition, Teachers College Press; 3rd edition, 2014.

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