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調査研究・コラム

コラム

〈2022/07/01〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

スウェーデンの園での言葉の教育

神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業

 幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領(以下、要領・指針)のねらい及び内容は「健康」、「人間関係」、「環境」、「言葉」、「表現」で、言葉は幼児期の学びの重要な項目の1つになっています。また、2018年4月施行の新しい要領・指針で示された「幼児の終わりまでに育ってほしい姿」(10の姿)にも「言葉による伝え合い」が入っています。(参考資料1,2,3)

日本だけでなく諸外国でも、言葉は幼児教育の重要な学びです。子どもがのびのび育っているスウェーデン(参考資料4)の就学前教育カリキュラム(Läroplan för förskolan – Lpfö 18:日本の要領・指針に相当)(参考資料5)から、スウェーデンでは、子どもたちに言葉の学びを通してどのような力を育んでほしいと願っているかを紹介し、日本の言葉の教育の良いところやさらに良くしていくべき点を考えます。

スウェーデンの就学前教育カリキュラム(Lpfö 18)のねらい及び内容に相当するゴールとガイドラインの項目は「規範と価値観」、「成長と学習」、「子どもの影響」等で、言葉の教育に関係する記述は1つの項目にまとめられているのではなく、カリキュラムの随所にあります。これは、言葉は単独で学習させるべきことではなく、ケアと社会性を身につけさせることと学習は、それら全てが首尾一貫としたものとなるよう計画し実施されるべきである、という理念に基づいているからです。

プレスクールの基盤となる大切なこととプレスクールの役割(総則に相当)には、以下のような「言葉の教育」に関する記述があります。

  • コミュニケーション能力、学習能力、協調できる能力は社会において不可欠である(中略)。プレスクールは、社会で生きる全ての人が必要とする共通の枠組みを構成する知識と技術を子ども達が将来、獲得できる基礎を提供する。
  • 子ども達は、遊び、社会的な相互作用、探究、観察、議論、省察を通して知識を得、発達させていく。
  • 子どもは大人からの刺激や手引きで言語能力を高めながら、自身の活動を通して新しい知識や洞察を得ていく。
  • 言語と学習は不可分で、言語と子どものアイデンティティの形成・発達も不可分である。
  • 外国文化のバックグラウンドを持っている子どもに対しては、母国語とスウェーデン語の両方を学べる機会を提供せねばならない(スウェーデン語のみを強制してはならない)。

ゴールとガイドラインには、以下のような「言葉の教育」に関する記述があります。

  • 子ども達の聞く力、省察する力、自分自身の考えを述べる力、先を見通す力を育てる
  • 子ども達の、話し言葉、語彙、概念、考えを述べること、質問すること、議論をすること、他者とコミュニケーションすることを育てる。
  • 書かれた言葉に興味関心を持つ、記号を理解しそれがコミュニケーションに果たす役割を理解する力を育てる。
  • 絵や写真、文字、その他の異なる文化メディアに興味関心を持ち、それらを使えるようになり、それらを解釈し、それらについて話す力を育てる。
  • 科学について、識別する力、探究する力、記述する力、質問し、言及する力を育てる。
  • スウェーデン語以外に母国語で、子ども達が自分たちのアイデンティティを育み、スウェーデン語だけでなく母国語でコミュニケーションができるように支援する。

日本の幼児教育における言葉の教育は、豊かな情緒を育み、相手の心に寄り添える優しさを育てています。スウェーデンの言葉の教育では、幼い時からアイデンティティを確立し、自分の意見を理論的・客観的に述べ、他者と冷静に議論する力を育てています。どちらの保育も素晴らしいのですが、優しさや共感力を育む良さを大切にしながら、自分の意見を理論的・客観的に述べる力、他者と冷静に議論する力を育てるという視点を、日本とスウェーデンはお互いに参考にしあって取り入れていくことで、両国の子どもたちの言葉の教育はより良いものになっていくと期待されます。

写真:スウェーデンの園児 *筆者撮影

 

参考資料
1)文部科学省, 幼稚園教育要領、第2章 ねらい及び内容, 言葉,
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/you/index.htm
2)厚生労働省, 保育所保育指針, 第2章 保育の内容, 言葉, https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf
3)内閣府/文部科学省/厚生労働省, 幼保連携型認定こども園教育・保育要領, 第2章ねらい及び内容並びに配慮事項, 言葉, https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010420
4)河本圭子, スウェーデンのびのび教育, 新評社, 2002
5)スウェーデン教育省, https://www.skolverket.se/undervisning/forskolan/laroplan-for-forskolan,
(2022年6月29日閲覧)

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