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調査研究・コラム

コラム

〈2021/11/01〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

感染症禍の孤独な長い日々を、無駄に失われた時間にせず、有益で素晴らしい時間にしましょう

日本に先んじること2か月、イタリアのロンバルディア州では、新型コロナウイルスが急速に蔓延し、2020年2月24日、突然の休校措置がとられました。ロンバルディア州ミラノにあるアレッサンドロ・ヴォルタ高校のスキラーチェ校長先生は、休校を伝える「生徒への手紙」(Lettera agli Studenti)を学校のホームページに掲載しました(参考資料1)。感染症拡大下で学徒として人としてどうあるべきかを説いた、生徒への思いやりと人間味あふれる力強いメッセージは、高校生のみならず多く人の心に響き、日本でも話題となりました。

 

「生徒への手紙」から1か月あまりの3月27日。イタリアの感染状況は悪化し、外出禁止令が出されています。休校措置も、イタリアのすべての学校に広がっています。そんな状況のなかの5月、スキラーチェ校長が経験したことや気づきを通して、新たに日本の子どもたちへ未来へ向かう希望のメッセージを届とどけてくれました。上記の「生徒への手紙」の日本語訳を含む、ヴォルタ高校のリモート学習(eラーニング)についてのインタビューや休校中の子どもをかかえる日本の保護者の方々に向けてのアドバイスなどが、やさしく温かく、力強い言葉で記されています。また、教育現場の最前線にいる日本の先生たちに向けてのメッセージも贈られています。下記にそのメッセージを抜粋して掲載します。

 

この危機を乗り越えたとき、皆さんはきっと変わっていることでしょう。よい方向に変わることができるかもしれません。もっと自覚を持った、もっと素晴らしい人間になることができるかもしれません。本を読み、考えることで、この孤独な長い日々を無駄に失われた時間にせず、有益で素晴らしい時間にしましょう。イタリアの生徒たちにとっても、日本の生徒たちにとっても、そうあってほしいと思います。皆さんの幸運を、心よりお祈りいたします。 ドメニコ・スキラーチェ

 

そして日本の子どもたちへの“追伸“として、「この痛みはいつか、皆さんの財産になるでしょう」と締めくくられています。(参考資料2)

 

日本でもようやく感染症の拡大傾向が減少に転じ、2021年10月に緊急事態宣言が解除されました。神奈川大学とスターチャイルド白楽ナーサリーの子どもたちとの産学連携事業である共育活動も、この11月にやっと神奈川大学のグラウンドでの運動遊びとして再開できることになりました。とても嬉しいです。

 

けれど、医療や公衆衛生の専門家からは、他国で感染者減少の後に再拡大が起こっていることから日本でも第6波が来ることへの警戒感が示されており、学校や保育施設での学習活動や保育活動は、まだまだ感染防止のため、様々な制約下にあります。私たちも、完全防止に最大限の注意を払って、短時間の活動をすることになります。加えて、この1年半の間に子供たちが教育や保育の制約によって受けた大きな影響を回復するには、長い時間とたゆまぬ努力が必要です。幼稚園教育要領・保育所保育指針の改訂(2018年施行)で、幼児教育から高等教育が一本につながり、幼児教育が生涯にわたる学びの原点・スタート地点として位置づけられました。その大事な幼児教育の1年半をさまざまな制約下で過ごさざるをえなかった年長さんの保護者の方や保育士のみなさまは、子どもたちの半年後の小学校入学に不安を感じているかもしれません。けれど、スキラーチェ校長先生が言うように、無駄に失われた時間にしてしまうか、有益で素晴らしい時間にするかは、私たち次第なのです。痛みを財産にすることができるよう、学びを続けていきましょう。

 

【参考資料】

1)Domenico Squillace, Lettera agli studenti – 25 febbraio 2020, https://www.liceovolta.it/nuovo/la-scuola/dirigente-scolastico/1506-lettera-agli-studenti-25-febbraio-2020

2)ドメニコ・キスラーチェ, イタリア・ミラノの校長先生からのメッセージ「これからの時代を生きる君たちへ」, 世界文化社, pp.48, 2020.

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