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〈2021/09/15〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

待機児童は過去最少だが、女性の就業は妨げられ、保育施設事故は最多

待機児童の解消を図り女性の就業率8割に対応するため、厚生労働省は平成30年~令和2年度(2018年4月~2021年3月)の3か年計画「子育て安心プラン」を実施しました。2021年度初頭(4月1日時点)の待機児童数は過去最少の5634人で(資料1)、待機児童の解消は改善されているように見えます。しかし、この数値の背景には、保育所の受け入れ人数が増えたことだけでなく、新型コロナウイルス感染への不安から多くの保護者が子どもを預けるのを控えたことがあり、コロナ禍が女性の就業を妨げている現状が明らかになりました。

 

 

 

 

(グラフ:資料2)

 

 

また、待機児童数は減りましたが、2020年に保育所や幼稚園、認定こども園などの保育施設で発生した死亡事故および重篤な事故(*)は、昨年比287件増の1586件で、今の集計方法になってから最多となってしまいました。内訳は、負傷などが1581件、死亡が5件でした。亡くなった5人の年齢は、4歳が2名、1歳と0歳が1名ずつで、死因は窒息が3名で最も多く、食べ物が詰まったことによるものでした(資料3)。なお前年(2019年)は睡眠中に最も多くの死亡事故が発生していました(資料4)。

 

事故の件数が増加していることについて、内閣府は「事故報告の仕組みが浸透している結果」と説明しています。しかし、食べ物をのどに詰まらせる窒息も睡眠中の死亡も、「子どもを見ている」という保育の基本を複数の保育士で手分けしてやっていれば、ほとんどの場合、防ぐことができます(SIDS:乳幼児突然死症候群のような防ぐことが難しい事例もありますが)。今年の7月29日に発生した保育園の送迎バスの車内に園児が置き去りにされ熱中症で死亡するという痛ましい事故は、「子どもがいるか・いないかを確認する」という当たり前のことが行われていなかったことで起こりました(資料5)。

 

保育所の利用を希望する家庭の子どもたちが通えるよう保育所の受け入れ定員が増えることはよいのですが、人数が多くなることで目が届かなくなったり必要な確認がきちんと行うことができず、子どもたちの安心・安全が守られなくなってしまったら保育は成り立ちません。感染症だけでなく、事故からも子どもたちを守っていく取り組みを官民一体となって進めていく必要があります。

*重篤な事故:治療に要する期間が 30 日以上の負傷や疾病を負う事故

 

 

【資料】

1) 厚生労働省, 保育所等関連状況取りまとめ(令和3年4月1日)及び「子育て安心プラン」「新子育て安心プラン」集計結果を公表, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20600.html, 2021年8月27日

2)朝日新聞DIGITAL, 2021年8月27日, 待機児童、過去最少の5634人 初めて1万人を割る

https://digital.asahi.com/articles/ASP8W2HFPP8VUTFL006.html?pn=7

3)内閣府, 教育・保育に関する報告・データベース, 教育・保育施設等における事故報告集計,

令和2年(令和2年1月1日~令和2年12月31日)

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/pdf/r02-jiko_taisaku.pdf

4)内閣府, 教育・保育に関する報告・データベース, 教育・保育施設等における事故報告集計,

令和元年(令和元年1月1日~令和元年12月31日)

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/pdf/r01-jiko_taisaku.pdf

5)朝日新聞, 2021年7月31日 朝刊, 園長「全員降車、確認せず」 バスに9時間放置か 5歳死亡

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