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〈2021/08/03〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

お腹に赤ちゃんがいるお母さん、体重管理に悩まなくても大丈夫

2021年3月、日本産婦人科学会が妊婦さんの体重増加の目安を引き上げました。体重管理をつらく感じたり、体重測定で厳しい指導がなされ、妊婦検診が近づくと緊張し不安になる妊婦さんが少なくなかったのですが、3㎏程度のゆとりを持った値に変更されました。

 

表1:日本産婦人科学会の妊婦の体重増加の指標

 妊婦さんが肥満すると妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)、妊娠糖尿病などを発症するリスクが高まることや緊急帝王切開、分娩後大出血なども増えることから、肥満を抑制するよう指導が行われてきました。

その一方で、若い女性のやせ志向だけでなく、妊婦さんに厳しい体重制限を課す医療機関が増えたことで、低出生体重児(2500g未満)が多くなりました。日本では過去15年にわたって約9.5%、つまり9~10人に1人の赤ちゃんが低出生体重児です。低体重で生まれた子は様々な健康上の問題を抱えがちです。特にリスクが高まるのが生活習慣病で、高血圧や糖尿病、高脂血症などを発症しやすくなります(資料3)。
以前からこの状況を心配する声が上がっていましたが、なかなか妊婦さんの体重増加の指標の見直しには至りませんでした。しかし、Scienceという権威ある科学雑誌で、日本の妊婦さんへの厳しい体重制限が低出生体重児を増やし、その子の将来の健康に悪影響を及ぼしている可能性を指摘されたことが(資料4)、この度の改訂を後押ししました。

しかし、この改訂も疑問が全くないわけではありません。妊娠前に体格指数(BMI)が18.5未満の痩せている女性は、今回改訂された指標通りに体重を増やしても、妊娠前から普通体重だった人に比べると低体重出生児の出産や早産、難産などのリスクが高くなります。また、妊娠中に12~15㎏もの体重を「健康的に」増やすことが可能か、という問題もあります。

体格指数(BMI)が30未満の妊婦さんはそれほど厳しい体重制限は必要ありません(資料5)。そして体格指数(BMI)が18.5未満の痩せている女性は、妊娠してから体重を増やすのではなく、妊娠前から普通体重にしておくことが重要です。

 

【資料】
1) 日本産婦人科学会, 日本産婦人科医会, 産婦人科診療ガイドライン-産科編2014, CQ010妊娠前の体格や妊娠中の体重増加量については?
http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/01/img-31020320.pdf, 49ページ
2) 日本産婦人科学会, 妊娠中の体重増加指導の目安について
https://www.jspnm.com/topics/data/kaiin20210311.pdf
3) Medical Note, 将来の生活習慣病を予防する-食生活を見直し、赤ちゃんの低体重化を防ぐ
https://medicalnote.jp/contents/181112-001-FU
4) Dennis Normile, Staying slim during pregnancy carries a price, Science, Vol.361, pp440. 2018.
5) 朝日新聞 2021年7月3日 朝刊, (Hugsta Journal)妊婦の目安体重、なぜ引き上げ

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