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〈2020/08/04〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】みんながヒーロー 新型コロナウイルスなんかに負けないぞ

新型コロナウイルス感染症の拡大は、身体の健康だけでなくメンタル・ヘルスにも深刻な影響を及ぼしています。コロナが世界中で猛威を振るう中、大人だけでなく子どもも大きな不安とストレスにさらされています。そんな子どもたちの、コロナに関する不安や心配な気持ちに寄り添ってケアすることを目的として、国連の関係機関である「機関間常設委員会(IASC)」の「緊急時のメンタルヘルスと心理社会的支援に関するレファレンス・グループ(MHPSS RG)」が、「My Hero is you」という1冊の絵本を作りました1)。この絵本の制作には世界中の1700人を超える子ども、親、ケア・ワーカー、教師たちが関り、100を超える言語に翻訳され、世界中の子どもたちに届けられています。日本語版もあり、タイトルは「みんながヒーロー」です2)。

 

主人公はサラというコロナで不安な気持ちになっている女の子で、大好きで頼もしい科学者のママに「サラにはみんなのために元気でいてほしい、ママのヒーローでいてほしい」と言われます。そんなサラが夢の中で、アリオという翼を持つ大きな生き物の背中に乗って旅に出て、多くの子どもたちと出会い、みんなが思いやりの気持ちをもって、手を洗い、家にいることで、大好きな人たちが元気でいられるように助け合えるということを知る、というお話です。

 

コンセプトはとても素敵な絵本ですが、感染予防の基準がWHO(世界保健機構)推奨のもので日本とは異なります。日本の基準の方が安全性が高いので、絵本の記載をそのまま読むのではなく、保護者や保育者の方が日本基準に変えて子どもに読んで聞かせることをお勧めします。例えば、感染予防のための人との距離はWHO基準では1mなので絵本でも「1mは離れる」と書かれていますが、日本の基準は2mです。感染者の口や鼻からのウイルスを含んだ飛沫が飛ぶ距離の調査結果からも2mの方が安全です。また、「セキは肘の内側でする」(咳をするときには肘の内側で口を覆う)と記載されていますが、日本では「マスクやハンカチで口を覆う」とされており、日本のやり方の方が飛沫をばらまいてしまうことを防ぐ効果が大きく、他の人に感染させてしまう危険は低い、安全なやり方です。

自分で絵本が読める子どもの場合、一緒に読みながらこれらの解説をして、「絵本のサラちゃんより、○○ちゃん(子どもの名前)はもっとヒーローらしいいいやり方を知ってるね」と伝えるとよいでしょう。なお、絵本には、出会った際に挨拶の「ぎゅう」(ハグ・抱擁)を直接しない(離れたところから「抱擁する気持ちを伝える)と書かれていますが、日本ではそのような風習はあまり一般的でないので、子どもには分かりにくいと思われます。握手(を直接しないで、握手する気持ちを伝える)などに言い換えた方が分かりやすいでしょう。

 

東京だけでなく日本全国で感染がさらに広がっています。感染予防の重要性とメンタルヘルスの重要性を絵本を通して子どもと一緒に再確認することが、子どもの心のケアにもつながります。

 

【参考資料】
1)IASC In-Agency Standing Committee, My Hero is You, Storybook for Children on COVID-19,
https://interagencystandingcommittee.org/iasc-reference-group-mental-health-and-psychosocial-support-emergency-settings/my-hero-you

2)みんながヒーロー(日本語版)My Hero is You, Storybook for Children on COVID-19 (Japanese)
https://interagencystandingcommittee.org/system/files/2020-04/My%20Hero%20is%20You%2C%20Storybook%20for%20Children%20on%20COVID-19%20%28Japanese%29.pdf

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