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調査研究・コラム

研究データ

〈2020/05/01〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】子どもと大学生の共育-学生の研究(1)

神奈川大学産学連携研究事業の「大学生と子どもが遊び、共に育つ『共育』」では、教員だけでなく学生も保育所の協力を得て教育研究活動を行っています。今回は、その成果の1つである、学生が卒業論文研究として行った、保育に関わる際に抱くポジティブな感情とネガティブな感情について、大学生と保育士(専門職)を比較した調査研究をご紹介します。保育所にお伺いして子どもたちと遊びを通して関わった学生たちと、その園の保育士さんにアンケート調査に協力していただきました。

 

保育士と大学生では、ポジティブな感情を抱くときとネガティブな感情を抱くときが異なっていました。保育士がポジティブな感情を抱くのは、子どもたちが今までできなかったことができるようになったときや、うまくいかなかったことに少しずつ子ども自身のペースで対応できるようになっていく過程、「子ども」対「子ども」の間の出来事や人間関係などを通して、子どもたちの成長を感じることができたときでした。一方、大学生がポジティブな感情を抱くのは、子どもたちが自分に話しかけてくれたり、名前を呼んでくれたり、笑顔になってくれたときなど、学生自身が子どもたちと仲良くできた、うまく関われたと感じたときでした。

保育士がネガティブな感情を抱くのは、子どもが怪我をしてしまったり、子どもたちに思いを伝えられず誤解を招いてしまったり、子どもたちの言いたかったことを理解できなかったときなど、自分が保育者として至らないと感じたときでした。一方、大学生がネガティブな感情を抱くのは、子どもたちが泣いてしまったときや、やってほしいと思うことを子どもがしてくれなったとき、逆に止めてほしいと言っても止めてくれなかったときなど、子どもが自分の思い通りにならないときでした。

けれど、この研究を行った学生をはじめとする保育所に通い続けた学生たちは、ポジティブな感情とネガティブな感情を抱く瞬間が、当初はアンケートに協力してくれた他の大学生たちと同じでしたが、研究のために保育所に通い、子どもたちと過ごす機会が増えて関りを深めていくにつれ、保育士と共通するものへと変わっていったことが、参与観察記録から分かりました。

 

保育士は高い専門性が求められる、やりがいはあるけれど大変な仕事で、養成校の学生でも、最初の実習で「自分は向いていない」と諦めてしまう事例を、私はこれまでいくつも見てきました。しかし、今回、学生の卒業論文研究の指導を通して、子どもの成長を見守り支える保育士は、子どもと関わることを通して自分自身もまた成長していくのであり、最初から「保育士」として完成しているのではなく、子どもたちと関わっていくことを通して専門性を備えた保育士になっていく、ということを再認識しました。

 

今年もまた、新たにゼミに入ってきた学生たちが子どもたちとの遊びを通して様々な体験ができるのを楽しみにしていましたが、感染症拡大の影響で中止になってしまいました。学生の大学構内への立ち入りは禁止となり、授業は遠隔で行われることになりましたが、保育所は難しい判断を迫られ、緊張した日々を送っています。一刻も早く事態が収束して、大学生と子どもたちが安心してそれぞれの学び舎に通うことができ、一緒に遊ぶ共育の機会を持つことができる日が来ることを願っています。

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