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〈2019/10/15〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】第17回 スウェーデンの幼児教育カリキュラム

今回と次回の2回に分けて、子育てしやすい国・児童福祉が充実している国の代表格であるスウェーデンの幼児教育カリキュラムを紹介します。今回は、スウェーデンの幼児教育の概観と基本理念についてです。

 

スウェーデンの幼児教育カリキュラムの冒頭には「民主主義がプレスクールの基盤を形成する」と記載されています。また、日本の日本の保育所保育指針・幼稚園教育要領・幼保連携型認定こども園教育・保育要領認定こども園教育保育要領は、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」という項目に分かれており、それぞれについてねらいと内容が規定されていますが、スウェーデンのLpfö 18のねらい及び内容に相当するGoal and Guidelinesは「規範と価値観」「成長と学習」「子どもの影響」で、民主主義の理解、民主主義にのっとった自己実現、他者の尊重、民主主義の実現のため、そして民主主義社会の一員として子どもたち達も責任を担うことを学んでいきます。

 

スウェーデンの幼児教育カリキュラムは日本のように項目が細分化されていません。
これは心身の健やかな育ちに関することは個別・単独で学習させるべきことではなく、「holistic view(全人的な観点)と子どもたち達のニーズに基づき、ケアと社会性を身につけさせる。学習は、それら全てが首尾一貫としたものとなるよう計画し実施されるべきである」というポリシーに基づいているからです。
また、基本理念や到達目標、指導の大きな枠組みは記載されていますが、それを日々の保育の中でどう実践するのかは、各就学前教育機関に全面的に任されており、子どもの多様なニーズに応えながら現場(就学前学校の教員:日本では幼稚園教諭・保育士)の判断を尊重し、現場の裁量で就学前教育を行うことができるハード・ソフトの両方の仕組みが整えられています。

 

序章には以下のことが記載されています。

・コミュニケーション能力、学習能力、協調できる能力は社会において不可欠である(中略)。プレスクールは、社会で生きる全ての人が必要とする共通の枠組みを構成する知識と技術を子どもたち達が将来、獲得できる基礎を提供する。
・子どもたち達は、遊び、社会的な相互作用、探究、観察、議論、省察を通して知識を習得し得、発達させていく。
・子どもは大人からの刺激や手引きで言語能力を高めながら、自身の活動を通して新しい知識や洞察を得ていく。
・言語と学習は不可分で、言語と子どものアイデンティティの形成・発達も不可分である。
・外国文化のバックグラウンドを持っている子どもに対しては、母国語とスウェーデン語の両方を学べる機会を提供せねばならない(スウェーデン語のみを強制してはならない)」。

 

そして、スウェーデン社会が共有している民主主義的価値観の理解と受容が基本理念の第一にあげられています。
教育活動は子どもの学習と発達を刺激し、子どもたち達が自ら挑戦していくように支援すると述べられています。
そして、遊び・創造・学習の楽しさを促し、新しい経験・知識・技能を学ぶことへの子どもの興味を高め強化する、となっています。
さらに、子どもが自分自身や身近な周囲の世界を理解することに貢献し、子どもの経験・興味・要求・意見に基づいて、学習への探究心・好奇心・意欲を形成する、子どもたち達から湧き出てくる考えやアイデアを、学習に多様性をもたらすよう用いることが幼児教育の基本理念として定められています。

 

次回は、スウェーデンの幼児教育カリキュラムの到達目標(Goal and Guidelines)と子どもたち達の健やかな育ちの支援に関する日本の保育所保育指針や幼稚園教育要領等との違いについて考えます。

 

【参考資料】
Curriculum for the Preschool, Lpfö18, Skolverket, 2018

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