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調査研究・コラム

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〈2019/07/16〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】第14回 日本の保育の成果-幼児のほとんどは適正体重

前回、このコラムで肥満判定について紹介しました。成人は生活習慣病およびその予備軍である肥満者の増大が問題になっており、逆に若年女性では不必要なダイエットで健康を損なうことが心配されています。子どもについても「肥満児が増えている」という表記をいろいろなところで目にします。先進国でも米国やニュージーランドでは小児肥満が子どもの健康問題となっています(資料1)。しかし筆者はここ何年も勤務校および自宅周辺で肥満および肥満傾向の幼小児を見たことがありません。調査のための保育観察対象児の中の「他の子に比べて運動量が少なく体力がない」子どもにも肥満傾向はありません。日本の幼児の痩肥の実態はどうなのでしょうか。

 

文部科学省の全国調査によると、過去42年間の子どもの痩肥の変遷は下図(資料2)のようになっています。なお、2005年度(平成17年度)調査までは、性・年別平均体重の120%以上を肥満傾向児、80%以下を痩身傾向児と定義していましたが、2006年度(平成18年度)調査以降は、

(実測体重-身長別標準体重)÷身長別標準体重×100

の値が20%以上の者を肥満傾向児、-20%以下の者を痩身傾向児としています。
幼児(5歳児)については2006年以降の13年間の調査結果が報告されています。

 

小学生・中学生・高校生の肥満傾向児は男女とも1977年(昭和52年)から増加傾向にありましたが、2003年(平成15年)あたりから減少傾向に転じました。幼児では男女とも過去13年間2%台で、少ない状態を維持しています。(図1)

▲図1:肥満傾向児の出現率

 

痩身傾向児は、小学生・中学生・高校生の場合、男児では1977年以降増加傾向にあります。女児も2003年(平成15年)あたりまでは増加していましたが、それ以後は小中学生では2%台、高校生では1%台です。幼児では男女とも13年間0.5%未満で、非常に少ないです。(図2)

▲図2:痩身傾向児の出現率

 

大人と違って子どもは、その多くが太り過ぎでも痩せすぎでもありません。幼児の場合は特に、ほとんどが適正体重です。これは保護者のみなさまが子育てに自信を持ってよい点ですし、幼稚園・保育所の運動遊びの充実や食育の努力の賜物です。
「三つ子の魂百まで」と言われますが、適正体重の維持については、子どもの時に保つことができていたよい状態を、大人になると保てなくなってしまうようで、残念です。幼児期の健康教育を生涯にわたる健康教育にどのようにして繋げていくか、人生100年時代の健康科学の重要なテーマです。

 

【資料】
1) Watanabe K., Dickinson A., Comparative study of children’s current health condition and health Education in New Zealand and Japan, Contemporary Issues In Education Research, Vol.8, No.2, pp117-122, 2015.
2) 学校保健統計調査, 2018年度(確定値)の結果の概要
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/1411711.htm

 

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