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調査研究・コラム

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〈2018/11/23〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】第6回 子どもの体力・運動遊びの二極化

運動会の季節になりました。神奈川大学産官学連携研究事業のパートナーである保育所(*)でも、大学の運動施設を使って運動会を開催し、主役の子ども達と保育士の先生方、保護者のみなさま、そして大学生も加わって、元気いっぱい楽しい半日を過ごしました。

健やかな育ちのために元気に体を動かして遊ぶことは重要ですが、近年、「子どもの体力が低下している」といわれています。幼児がよくやっている遊びは「お絵かき、折り紙、ぬり絵、粘土遊び」や「ビデオ・DVD・TVを見る」等1)の室内での静的・受動的な遊びということからも、幼児が元気に外遊びや運動遊びをすることが少なくなっている、体力が低下しているという現状が伺えます。その一方で、文部科学省が選定した地域のモデル園での体力向上の基礎を培う活動の報告によると、子ども達の体力は3年間で向上しています2)。これらの調査報告から、外遊びや運動遊びをあまりせず体力低下が懸念される幼児と、保育の中で支援を受けて体力が向上している幼児がいる、ということが推察されます。

小学生では体力の二極化傾向、すなわち体力があって運動をよくする子ども達がいる一方で、体力がなく運動をしない子ども達が増えていることが問題になっています。そして、幼児期に外遊び・運動遊びをよくしていた児童は小学校入学後もよく運動し体力も高いことが報告されています。つまり、体力の二極化傾向は、小学生になって突然発生するのではなく、幼児期にどのくらい元気に運動遊びをしてきたかを反映しているのです3)

幼児期は、心肺機能や筋骨格系が未発達なので、持久力や筋力を鍛える運動(トレーニング)は負荷が大き過ぎて不適です。また、身体の特定の部位(例えば利き腕)のみを使ったり、特定の方向にのみ体をねじったり動かしたりする運動ばかり行うのも、バランスの取れた発育発達のためには好ましくありません。幼児期は身体のあらゆる部分を使って色々な動きを楽しんでやってみること、すなわち(運動)遊びが最も適しています。

また、遊びの中で転んだりぶつかったりする経験も大切です。小さいうちは重心が低く体重も軽く移動スピードも遅いので、転んだりヒトやモノにぶつかったりしてもあまり大きなケガにはなりません。幼児期に転ぶ経験をしていない子どもは、転んだ時に手を出すという動作が身につきませんし、ぶつかる経験をしていない子どもは、避けたりかわしたりする動作が身につきません。そういう、ケガから身を守る動作が身についていない子どもは、小学校入学以降、体育の時間に思いがけないケガをする危険があります。

小さなケガでもビックリしてしまう保護者の方がいらっしゃいますが、元気に遊んだ証拠であり、運動遊びを通して体力をつけ身を守る動作を身につけている過程です。大きなケガや事故は防がねばなりませんが、神経質になりすぎて、子ども達の遊びが静的・受動的なものに偏ってしまわないよう見守り支援することが重要です。

(*)スターチャイルド白楽ナーサリー

 

<参考資料>

1)NHK放送文化研究所「幼児生活時間調査」、放送研究と調査、2013.

2)文部科学省「体力向上の基礎を培うための幼児期における実践活動の在り方に関する調査研究報告書」2011.

3)文部科学省スポーツ庁「平成28年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書」幼児期の外遊びと小学生の運動習慣・体力との関係、2017.

 

【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授

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