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調査研究・コラム

研究データ

〈2018/09/03〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

【神奈川大学産官学連携研究事業】第4回 母親指標が高い=お母さんに優しい国、とは言えない

待機児童の問題は解消されないまま、保育の無償化が2019年10月から実施されます。お子さんが保育所に入れるご家庭はよいのですが、多くの「保育園、落ちた」親御さんが困ったままの状態で置き去りにされている日本は、子どもを産み育てにくい国1)です。お母さんに優しい国ランキング(母親指標ランキング)2)で、先進国の中で日本は順位が低いことを憂える発言や記述も各所でなされています。では、母親指標ランキングが上がるようにすれば、子育てしやすい国になるのでしょうか?

母親指標とは、子ども支援の国際NGOセーブ・ザ・チルドレンが、179か国の母親の状況を比較可能な指標で表したもので、子どもの幸福や子育てのしやすさを母親のステイタスから検証するためのものです。上位5か国の常連は北欧諸国(ノルウエー、フィンランド、アイスランド、スウェーデン、デンマーク)です。オランダが5位に入っている年度もありますが、上位国間での順位入れ替えにとどまっています。日本は過去5年間、31位または32位です。福祉が充実している北欧諸国がランキング上位を占めているので、一見、母親指標が高くなるようにすれば日本も子育てしやすい国になりそうな気がします。

指標を算出するデータは、先進国でも発展途上国でも得られるものでなければなりません。現在の母親指標は、①妊産婦の死亡リスク、②5歳児未満の死亡率、③公教育(義務教育)の在籍年数、④国民一人当たりの所得、⑤女性議員の割合―の5つの指標から算出されています。北欧諸国に比して日本の値が低いのは⑤だけなので、女性議員が増えれば日本の母親指標は一気にランキング上位に入るでしょう。

では、女性議員が増えれば子育て支援に関する問題が解決して、子育てしやすいお母さんに優しい国に日本はなるのでしょうか?議員の男女比の極端なアンバランスの解消は様々な問題の解決に繋がっていく可能性はあると思われます。しかし、女性議員が増えることが、例えば待機児童の問題解決に直結するわけではないのは明らかです。妊産婦や乳幼児の死亡率が高く、女の子は義務教育すらまともに受けられない状況にある国の母子の現状と問題点の把握と必要な支援を考えるための指標を、状況も問題点も全く異なる日本で用いるのは適切ではありません。

政策や支援方法などの決定は客観的なエビデンス(根拠)に基づいて行われるべきですが、指標のような数値を示されると「客観的」と思えたり、それが国際的に用いられているデータであれば「グローバル」のお墨付きまでついているように見えたりします。また、待機児童数ゼロという行政の公表に疑問を持った「保育園、落ちた」保護者は大勢いますが、公表値の背後に、実は隠れ待機児童が大勢います3)。数値のような具体的なエビデンスは重要ですが、その数値はどうやって導き出されたものなのかを確認することはもっと重要です。

 

参考資料
1)1 more Baby応援団, 夫婦の出産意識調査 2017.
2)Save the Children, State of the World’s Mothers Reports, Mothers’ Index.
3)朝日新聞デジタル, 待機児童問題「見える化」プロジェクト.

 

【執筆者プロフィール】
顧問 渡部かなえ
神奈川大学人間科学部教授

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