お問い合わせ

調査研究・コラム

コラム

〈2026/09/01〉

顧問 渡部かなえ(神奈川大学人間科学部教授)

イヤイヤ期は子どもの心の育ちの証

神奈川大学 渡部かなえ
神奈川大学産官学連携研究事業

 忙しい朝や予定が押していて保護者も大変な時に、2歳くらいになっておしゃべりが上手になってきた子どもに、何を言っても「イヤ!」と言われると、理不尽に困らされているように感じて、つい「どうしてそんなに嫌がるの?」「どうしてこんなに聞き分けが無いの!」と思ってしまいます。しかしイヤイヤ期はわがままではありません。子どもの脳が発達し心が大きく成長していることの現れです(参考資料1)。
2歳頃の子どもは、「自分はママやパパとは別の存在だ」という自我が発達し始めます。それまで素直だった子どもが急に「イヤ!」「自分で!」と言い出すのは、自分の意思を持ち始め、自己認識し始めたからです。CDC(米国疾病予防管理センター)も、2〜3歳は子どもが独立性を主張し始める時期だと説明しています(参考資料2)。つまり、「イヤ!」は「私は私」という心の成長の証です。
イヤイヤ期を理解するうえで重要なのが脳の発達です。脳には感情を強く感じる「扁桃体(へんとうたい)」と、感情や衝動を理性でコントロールする「前頭前野(ぜんとうぜんや)」があります。幼児期は感情をコントロールする前頭前野は未熟ですが、喜びや怒り、悔しさなどの感情はとても強く働きます。自己制御に重要な前頭前野の機能は、乳幼児期から学童期、思春期を経て成人するまで、とても長い期間をかけて成熟していくことが知られています(参考資料3,4)。
つまり幼児は、例えるなら、感情のアクセルは全開になるけれど、我慢するブレーキは未完成、という状態です。そのため、「欲しかったお菓子が買えない」「もっと遊びたかった」といったことで、大人が想像する以上に強い感情が湧き上がり溢れ出してしまいます(参考資料5,6)。
子どもがこの強い感情からかんしゃくを起こしてしまうと、大人は「落ち着いてお話ししよう」「どうしてダメなのか分かるよね?」などと言って聞き分けさせようとしたくなります。しかし、強い感情が生じている時、子どもは論理的な説明を処理できません。前頭前野の発達が途上にある幼児は、大人のように感情を整理することができないのです(参考資料6,7)。つまり、かんしゃくを起こしている最中に説得しようとしても子どもには届かないのです。
感情に名前を付ける「感情ラベリング」が感情の整理を助けることが示されています(参考資料8)。子どもが「イヤ!」と言って泣いたり怒ったりしている時は、「もっと遊びたかったんだね」「そのおもちゃを使いたかったんだね」と、まず気持ちを言葉にしてあげましょう。けれど、気持ちを認めることは、要求を全て受け入れることとは違います。「悲しかったね。でもお片付けはしようね」、など、感情を受け止めながらルールを伝えることが大切です。なぜなら、自己制御は大人との関わりの中で少しずつ育まれていくからです(参考資料9,10)。
子どもの毎日の「イヤ!」に保護者は疲れてしまうこともあるでしょう。しかしイヤイヤ期とは、子どもが自分の意思を持ち、感情を学び、自己コントロールを身につけていくための大切な過程です。今の「イヤ!」は、将来の「自分で考える力」の芽生えであり、「自己実現」のための土台作りです。子どもの自我の発達と、子どもが自分自身をコントロールできる力の育ちを、見守り支え育んであげてください。

【参考資料】

1.S. Head Start. Self-regulation and Reframing the “Terrible Twos” https://headstart.gov/podcast/self-regulation-reframing-terrible-twos.

2.Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Positive Parenting Tips: Toddlers (2-3 years old). https://www.cdc.gov/child-development/positive-parenting-tips/toddlers-2-3-years.html.

3.Fiske, A., & Holmboe, K. (2019). Neural substrates of early executive function development. Developmental Review, 52, 42-62.

4.Moriguchi, Y., & Hiraki, K. (2013). Prefrontal cortex and executive function in young children: a review of NIRS studies. Frontiers in Human Neuroscience.

5.Healthy Children, Emotional Development: 2 Year Olds. https://www.healthychildren.org/English/ages-stages/toddler/Pages/Emotional-Development-2-Year-Olds.aspx.

6.Moriguchi, Y., & Hiraki, K. (2013). Prefrontal cortex and executive function in young children: a review of NIRS studies. Frontiers in Human Neuroscience.

7.Abigail Fiske, Karla Holmboe, Neural substrates of early executive function development, Dev Rev. 2019 Jun;52:42–62.

8.lab, EVIDENCE-BASED PARENTING, 研究で読み解く、育児の「なぜ?」イヤイヤ期の対処法|癇癪が落ち着く「感情ラベリング」の使い方, https://www.and-lab.tokyo/terrible-twos-self-regulation/

9.zero to three, Your Calm Is Their Calm: Co-Regulation Strategies for Infants and Toddlers, https://www.zerotothree.org/resource/your-calm-is-their-calm-co-regulation-strategies-for-infants-and-toddlers/

10.zero to three, Helping Toddlers Develop Self-Control From 24-36 Months. https://www.zerotothree.org/resource/developing-self-control-from-24-36-months/

 

一覧へ戻る

TOP